ドナルド・ジャッド(1928〜1994)は、20世紀を代表する重要な作家のひとりです。1950年代に画家として活動をはじめ、60年代中頃から立体作品へと移行したジャッドは、独特の幾何学的なスタイルへと到達しました。その終りのない追及は、後に建築や家具にまで広がり、作品と周囲の空間による全体性を追及しつづけました。
これまでジャッドといえば、ほとんどが1960年代美術の重要な動向のひとつである「ミニマル・アート(最小限の芸術)」の代表的作家という紹介にとどまっていました。しかし近年、その芸術に対する再検証がはじまっています。彼の芸術は、ミニマル・アートの範疇にのみとどまるものではなく、また作家自身もそのようにみなされることを否定していました。
本展では、そうした観点にたち、版画作品からジャッドの全容を見つめ直そうと試みます。絵画制作をやめたのちも、版画は立体作品と並行して作られ続けました。それは決して副次的な産物ではなく、多分に実験的な要素を含んでおり、ジャッドの空間についての考え方を雄弁に物語っているとわれわれは考えます。線と色との組みあわせで様々なヴァリエーションをみせる版画は、決してミニマル(最小な)なものではなく、多くの要素が重なりあった豊かな存在として立ち現れます。
ジャッド財団の全面的な協力を得て、1950年代の珍しい初期作品から最晩年に至るまでの約110点で本展は構成されます。版画制作の過程を追ううちにジャッドの作品に対する意識の変化、深化をもそこに見いだすことができるでしょう。 |