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■ジャッドの作品は何を意味しているのですか?■
一見したところ、何の変哲もない箱が並べられているように見えるジャッドの作品から、何らかの意味や物語やメッセージを読み取ることはできません。ジャッドの作品は、何らかの具体的な内容を伝えるために制作されているわけではないのです。作品と向き合い、その形態を、色彩を、配置を、空間を、自分の視覚と身体を総動員して受けとめること、それがこのような作品を鑑賞する際に重要なことなのです。
日常生活で体験する様々なものの見方や空間の把握の仕方を、純粋な形に抽出し、その本質を経験するために作られた仕掛けがジャッドの作品なのだ、と考えることもできます。この仕掛けをはらんだジャッドの作品を見ることにより、鑑賞者は、形や色や空間に対する感覚が研ぎすまされていくのを感じるかもしれません。そして、その研ぎすまされた感覚によって現実の世界を見るとき、世界の見え方が変わってくる、という新鮮な体験をするかもしれません。
以下では、今回の出品作品をふまえて、ジャッドの芸術の展開を簡単に紹介します。
*下記の分類は説明のための便宜的なものであり、展示構成を示すものではありません。
【初期の絵画作品】
ジャッドの芸術家としての出発は、絵画でした。ジャッドは1950年代のアメリカで主流となっていた抽象表現主義の絵画、特にジャクソン・ポロックの絵画とバーネット・ニューマンの絵画から大きな影響を受け、イリュージョン(幻影)を排除した絵画をめざしていました。例えば、1960年制作の絵画では、湾曲する線は絵具を盛り上げて描かれており、描かれた線がイリュージョンを生むことをジャッドが慎重に避けようとしたことがうかがえます。本展では、遺族の協力により、ジャッドの存命中はほとんど展示される機会のなかった1960-61年の絵画作品5点を出品することが可能となりました。ジャッドのこの時期の絵画が展示されるのは世界的に見ても極めて貴重な機会であり、この展覧会のひとつのみどころと言えます。
【三次元の作品へ】
ジャッドは、絵画においてはイリュージョンを完全に排除することができないことから、画面に凹凸を施したり画面に既存のものを組み込む作品を制作し始めます。例えば、本展にも出品される1961年制作のレリーフ(ニューヨーク近代美術館蔵)では、画面の中央にパンを焼く時に使用されるアルミの型が埋め込まれ、画面の中に現実の空間が生じています。別のタイプのレリーフとして注目されるのは、1960年代前半に試みられた、画面の上部と下部が手前に迫り出してくる作品です(本展では1984年制作作品を出品)。この作品は、壁に垂直な面を持つことによって現実の空間と関わりを持つことになります。こうして、立体作品と共通する特質を有するレリーフ的な作品を経て、ジャッドは1962-63年にかけて床に置かれる作品の制作を始めます。本展では、60年代のコンセプトにつながる後年の作品も含め、レリーフ作品3点と床に置かれる作品3点を展示し、ジャッドが絵画から三次元の作品へと展開した頃の意識を探ります。
【典型的な作風の確立】
ジャッドの典型的な作風は、1964-65年頃に確立します。「スタック(=積み重ね)」と呼ばれるタイプの作品では、抽出のような同じ形の10個の直方体が、壁から突き出した格好で設置されます。ユニットとユニットの間隔は、ひとつのユニットの高さと同じ間隔になるように決められています。このスタイルは、1965年頃にほぼ確立されましたが、ジャッドは素材や色彩を変えて、数多くの作品を制作しています。例えば、今回出品される1989年制作の作品では、正面と側面には電気的な処理よって青に彩色されたアルミニウムが用いられていますが、上部と下部には透明なプレキシグラスが使われており、内部の空間が透けて見えるようになっています。本展では、「スタック」を3点、同様にジャッドの典型的な作風である「プログレッション(=漸進)」と呼ばれるタイプを4点展示します。
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写真:5 x 7 Studio
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写真:5 x 7 Studio
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写真:5 x 7 Studio
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【大型作品への挑戦】
ジャッドは、1994年に他界するまで、新しい素材の利用や色彩の積極的な活用を含め、常に新しい作品に取り組んでいまた。なかでも、1970年頃より始められた大型作品や会場の空間にあわせた作品の制作は、現代美術作品の恒久的な展示を行うチナティ財団(テキサス州マーファ)における活動へと発展し、ジャッドの主要な関心のひとつとなりました。例えば、1989年に開催されたバーデン・バーデン美術館における個展では、展示空間にあわせて12点の新作を発表しました(本展では2点を選んで出品します)。また、晩年の1991年に制作したアルミの5点組の大型作品は、チナティ財団に恒久的に展示されているアルミの作品100点をさらに発展させた作品と思われます。ジャッドが亡くなった現在から見ると、この作品は、ジャッドの芸術の魅力を凝縮した形で実現した代表的な作品と捉えることもできます。
「無題」1991年 Mill aluminum, 150 x 150 x 150 cm, 5 units copy right: Judd Estate photo: Boris Becker, Cologne
■「ドナルド・ジャッド 1960-1991」はどんな展覧会なのですか?■
日本でジャッドの本格的な展覧会を開催することを検討し始めた頃、ジャッドが他界しました(1994年2月12日)。この年から遺族(ドナルド・ジャッド・エステイト / ジャッド財団)との交渉を始め、1997年2月に展覧会の開催と作品の借用について合意が得られ、以後、出品交渉を進め現在に至っています。最終的には、遺族の好意により、絵画を含む貴重な初期作品、代表的な立体作品、そして、晩年の大型作品まで、計13点の出品が許可されました。また、展覧会構成上不可欠の作品3点をニューヨーク近代美術館ほか海外の所蔵先から借用し、これに日本国内の所蔵作品5点をあわせ、出品作品21点が決定されました。世界的に見てもほとんど紹介される機会のなかった、ジャッドの出発点を示す1960年制作の「ライン・ペインティング」から、晩年の代表作といえる1991年制作のアルミの5点組の大型作品までを含む、本格的なジャッドの展覧会「ドナルド・ジャッド 1960-1991」。ジャッドを知らない人にとってはもちろんのこと、すでに知っている人にとっても、ジャッドの芸術を体験する絶好の機会となることでしょう。
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